厚生労働省の公表した『令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況』によると、2024年の職場における熱中症の死傷者数は1,257人に上り、うち31名が死亡しています。こうした状況を受け、労働安全衛生規則の改正に伴い、2025年6月1日より企業に対し職場における熱中症対策が義務化されます。
本稿では、企業が講じるべき従業員の熱中症対策と、今回の義務化内容について解説いたします。
熱中症の基礎知識
熱中症は、高温多湿な環境下において体温調節機能が正常に機能せず、体内に熱が蓄積される状態を指します。主な症状としてめまい、吐き気、意識障害等が挙げられます。
熱中症の重症度はI度からIII度に分類され、I度は軽度とされますが、適切な対応が遅れると重症化のリスクがあります。熱中症予防の指標である暑さ指数(WBGT値)が28度を超過すると、熱中症患者が著しく増加する傾向が示されており、特に注意が必要です。WBGT値は、湿度、日射・輻射熱、気温の3要素を考慮して算出されます。
職場における熱中症予防対策
熱中症は屋内・屋外を問わず発生する可能性があり、全ての業種・職種において予防対策が不可欠です。以下に具体的な対策を挙げます。
1. 作業時間の短縮および休憩所の設置
WBGT値が高い時間帯(特に11時~15時)における屋外作業は極力避け、WBGT値に応じた作業の中止や、こまめな休憩の取得を徹底します。冷房設備を備えた休憩場所や日陰の確保、ミストシャワー等の設置も有効です。
2.通気性の良い衣服の着用
通気性や冷却機能を備えた作業着の着用を推奨します。
3.塩分・水分の適切な補給
大量の発汗に伴い体内の塩分が失われるため、水分補給のみでは不十分です。休憩時には飲料水や塩飴等を用意し、喉の渇きを感じる前からの定期的な水分および塩分補給を促します。
4.従業員の健康状態の観察
職場における熱中症は身近な労働災害です。従業員間での声かけや、現場管理者・部署マネージャーによる健康観察を徹底し、体調異変に早期に気づく体制を構築します。初期症状が見られた場合でも、無理に作業を継続することなく、直ちに休憩を促すことが重要です。
5.健康状態自己チェックリストの活用
熱中症の発症は、体調不良、不摂生、睡眠不足等の要因によりリスクが高まります。従業員には日頃から自身の体調管理に努めるよう促し、朝礼時や作業前の健康確認にはチェックリストを活用することが有効です。持病のある従業員に対しては、産業医や主治医と連携し、対応方法を確認しておくことを推奨します。
6.高年齢従業員の体調管理
高年齢者は暑さや喉の渇きを感じにくく、体温調節機能が低下している場合があります。高年齢従業員の体調変化に留意し、積極的に体調確認や水分補給の声かけを実施することが求められます。
熱中症対策の義務化内容(2025年6月1日施行)
2025年6月1日より、企業は従業員が熱中症を発症するおそれのある作業(WBGT値28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間を超えて実施が見込まれる作業)を行う場合、以下の対策を講じることが義務付けられます。違反した場合は罰則が科せられる可能性があります。なお、本項目における「従業員」には、同一の場所で作業する従業員以外の者も含まれます。
1.報告体制の整備
熱中症の自覚症状がある従業員、または熱中症のおそれがある従業員を発見した者がその旨を報告するための体制を整備し、従業員へ周知しなければなりません。責任者の氏名、連絡先、連絡方法を明確にするとともに、職場巡視、バディ制度、ウェアラブルデバイスの活用等を通じて、積極的に熱中症のおそれがある従業員を把握する仕組みを構築することが望ましいとされます。
2.手順の作成
熱中症のおそれがある従業員を把握した場合に、迅速かつ的確な判断と対応が可能となるよう、具体的な実施手順を作成します。緊急連絡網や搬送先医療機関の連絡先を含めることが推奨されます。作業場所や作業内容の実態を踏まえ、事業場独自の具体的な手順を定めることが可能です。
3.関係者への周知
整備した報告体制および作成した手順は、関係する従業員に確実に周知しなければなりません。事業所の掲示、メール通知、文書配布、朝礼での伝達など、複数の方法を組み合わせて実施することが推奨されます。複数の事業者が共同で作業する現場においては、共通の緊急連絡先を定め、見やすい場所に掲示することも有効です。
結び
2025年6月からの法改正により、職場における熱中症対策は企業の必須義務となります。企業はこれらの義務を確実に履行するとともに、従業員自身も日頃から自身の体調管理を意識することが重要です。
熱中症に関する危険性や、個人で実践可能な予防策を周知徹底することで、職場における熱中症リスクの低減に努めることを推奨いたします。
(出典)厚生労働省『労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について』