専門業務型裁量労働制は、従業員が自分で業務の遂行方法や時間配分を決定できるという特徴的な働き方です。実際の働いた時間に関係なく、あらかじめ定めたみなし労働時間で労働をしたと見なされますが、その運用に関しては慎重な対応が求められます。
1. みなし労働時間の設定と相応の処遇
専門業務型裁量労働制では、みなし労働時間を労使協定で定める必要があります。このみなし時間は、実際の労働時間とは一致しなくても問題ありませんが、適用従業員に相応の処遇(手当や給与引上げなど)を確保する必要があります。また、企業は賃金水準を開示し、労使協議で処遇を決定します。
2. 割増賃金の支払い
専門業務型裁量労働制でも、時間外労働や休日労働、深夜労働については割増賃金を支払う義務があります。
- 時間外労働:法定労働時間を超える時間外労働には、25%以上の割増賃金が必要。月60時間を超える場合は50%以上となります。
- 休日労働:法定休日に働いた場合、35%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
- 深夜労働:深夜(22時~翌5時)の時間帯で働いた場合、25%以上の割増賃金が必要です。
3. 健康管理と福祉確保措置
裁量労働制の適用において、企業は従業員の健康に配慮する必要があります。労働時間が見えにくくなるため、健康・福祉確保措置の例として、以下のような対応が求められます。
- 一定時間以上の勤務間インターバルの設定(例:11時間以上)
- 深夜労働回数の制限(例:1ヶ月あたり4回以内)
- 健康診断や面接指導の実施
従業員の健康状況に応じた措置を講じ、必要に応じて配置転換や産業医による指導を受けさせることが大切です。
4. 主なシーン別対応
- 休憩:法定の休憩時間(6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上)は必要ですが、休憩時間を指定することはできません。
- 遅刻・早退:時間配分の決定が企業の指示外のため、遅刻・早退による賃金控除はできません。
- 欠勤:通常の労働時間制と同様、賃金控除が可能です(完全月給制を除く)。
- 年次有給休暇:年休取得は可能です。賃金の扱いは、所定労働時間に対する賃金か、みなし労働時間に対する賃金かを、就業規則等であらかじめ定めておく必要があります。
5. 業務状況や健康状態に応じた適用解除
専門業務型裁量労働制の適用がふさわしくない場合、従業員に適用を解除し、通常の労働時間制度に変更することもできます。たとえば、業務効率が悪化したり、健康状態に悪影響を及ぼす場合には、事前に定めておいた労使協定に基づき、裁量労働制の適用解除を行うことが可能です。
6. 実務で気をつけるポイント
- 会議出席の指示:裁量労働制でも会議への出席は命じることができますが、頻繁な時間指定を伴う会議を行うと裁量が失われる可能性があるため、注意が必要です。
- 従業員の健康管理:健康管理措置を積極的に取り入れ、従業員の健康が守られるように取り組むことが重要です。
最後に
専門業務型裁量労働制を導入する際は、従業員への理解と納得が不可欠です。労使間でしっかりと協議し、適切な処遇や健康管理策を講じることで、制度が企業と従業員にとって有益なものとなります。