2025年度の税制改正により、「年収の壁」に大きな変化が生じました。本改正は、扶養内で働くパート・アルバイトの就業調整や物価上昇への対応を目的としており、特に所得税に関する見直しが中心です。企業は、改正内容を正確に把握し、給与計算や年末調整、さらには従業員への適切な情報提供が求められます。
「年収の壁」とは何か?
「年収の壁」とは、従業員が扶養内で働く際に直面する、収入が一定額を超えると税金や社会保険料の負担が増加する境界線のことです。これにより、手取り額が減少したり、扶養している家族の控除額が減ったりする可能性があります。年収の壁は大きく分けて、税金の壁と社会保険料の壁の2種類が存在します。
2025年度税制改正による「税金の壁」の見直し
今回の税制改正では、所得税における「基礎控除」と「給与所得控除」が見直され、さらに「特定親族特別控除」が新設されました。これにより、所得税が課税されない年収額が従来の103万円から最大160万円に引き上げられます。
- 基礎控除の引き上げ: 物価上昇に対応し、最高48万円から最高58万円に引き上げられます。低所得者・中所得者向けには所得階層に応じた加算があります。
- 給与所得控除の引き上げ: 物価上昇および就業調整に対応し、最低保証額が55万円から65万円に引き上げられます。
- 特定親族特別控除の新設: 主に19~22歳の学生アルバイトの就業調整に対応するため、新たに創設されました。
- 扶養親族等の所得要件の改正: 基礎控除の改正に合わせて、扶養控除などの対象となる扶養親族等の所得要件も改正されます。
これらの改正は原則として2025年12月1日に施行され、2025年分以降の所得税に適用されるため、年末調整での対応が必須となります。
依然として重要な「社会保険料の壁」
税制改正で「税金の壁」は変更されましたが、社会保険料が発生する「106万円の壁」と「130万円の壁」は現状維持されています。社会保険料は給与に占める割合が高いため、これらの壁は従業員の手取り額に大きな影響を与え続けます。
- 106万円の壁: 被保険者数が51人以上の企業(特定適用事業所)で働くパート・アルバイトが、以下の要件(週20時間以上勤務、月額8.8万円以上、2ヶ月超の勤務見込み、学生でない)を全て満たす場合、社会保険への加入義務が生じます。これにより、年収106万円を超えると保険料負担が発生し、手取り額が減少する可能性があります。
- 130万円の壁: 特定適用事業所以外で働く従業員、または特定適用事業所で上記の106万円の壁の要件を満たさない従業員が対象となります。家族の社会保険の扶養から外れ、自身で保険料を支払う必要が生じる年収基準です。年収130万円を超えると、同様に保険料負担により手取り額が減少する可能性があります。
税法上の扶養と社会保険上の扶養は適用要件が異なるため、企業は従業員に対し、その違いを明確に説明する必要があります。
企業が押さえておくべきポイント
2025年の税制改正は、企業の給与計算や年末調整業務に大きな影響を及ぼします。改正施行日が2025年12月であるため、年末調整時には改正前後の内容に基づいた税額の精算が必要です。労務担当者は、事前に対応を整理しておくことが重要です。
また、従業員の労働時間増加による人手不足解消への期待がある一方で、企業側も社会保険料負担が増加するという課題に直面します。さらに、自社独自の配偶者手当制度が「103万円の壁」を基準としている場合、就業調整の要因となる可能性があるため、手当の見直しも検討すべきです。
今後の展望
短時間労働者の社会保険加入要件の見直しを含む法案が2025年6月に成立し、将来的には「106万円の壁」の撤廃や、企業規模を問わず社会保険への加入が段階的に進む見込みです。労務担当者は、今後の法改正の動向に引き続き注視していく必要があります。