2025年6月に成立した年金制度改正法は、社会や経済の変化に対応し、多様な働き方やライフスタイルを支援することを目的としています。今回の改正は、主に以下の5つのポイントに集約されます。
1. 社会保険の加入対象の拡大
短時間労働者や個人事業所の社会保険加入要件が緩和され、より多くの人が社会保険に加入できるようになります。
- 企業規模要件の撤廃: 2027年10月から段階的に、短時間労働者が勤務先の規模に関わらず社会保険に加入できるようになります。
- 「年収106万円の壁」の撤廃: 賃金要件が撤廃され、年収の壁を気にせず働くことが可能になります。
- 個人事業所の適用拡大: 2029年10月から、従業員5人以上の個人事業所の適用業種が拡大されます。
2. 在職老齢年金制度の見直し
働きながら年金を受給する場合の年金支給額の調整基準である「支給停止調整額」が、2026年4月から大幅に引き上げられ、月額62万円になります。これにより、年金が減額されることを気にせずに働ける高齢者が増えることが期待されています。
3. 遺族年金制度の見直し
2028年4月より、遺族年金制度における男女差が解消されます。
- 遺族厚生年金: 子どものいない配偶者が受け取る遺族厚生年金について、男女間で異なっていた制度内容が共通化されます。
- 遺族基礎年金: 親と生計を同じくしている場合でも、父または母が遺族基礎年金を受け取れないときは子ども自身が受給できるようになります。
4. 厚生年金の標準報酬月額の上限引き上げ
厚生年金保険料と将来の年金額の計算基準となる標準報酬月額の上限が、段階的に引き上げられます。これにより、高収入の人が収入に見合った年金を受け取れるようになります。
5. 私的年金制度の見直し
iDeCoや企業型DCなどの私的年金制度が拡充されます。
- iDeCo: 加入可能年齢の上限が70歳未満に引き上げられます。
- 企業型DC: 従業員が拠出する「マッチング拠出」の制限が撤廃されます。
- 企業年金の運営: 運用状況が公表され、透明性が向上します。
これらの改正は、人事労務の実務にも大きく影響するため、企業は内容を正しく理解し、従業員への説明準備を進めることが重要です。